自己効力感・声かけ・継続に関する研究ノート
このページは、「Sumliaが子どもへの声かけやフィードバックの“言い方”にどうこだわっているのか」を、研究で確認されていることと、それを踏まえた設計判断に分けて整理するノートです。
「今日はやりたくない」「間違えたから、もういい」。家庭学習では、そんな一言から学習が止まることがあります。
少し背中を押すことはできても、うまくいかない日や気分が乗らない日にも、もう一度やってみようと思える状態を保つのは簡単ではありません。
Sumliaが大切にしているのは、子どもが 「むずかしいけれど、自分でも進めそうだ」 と思える感覚です。心理学では、これを 自己効力感 と呼びます。声かけは気分を上げる飾りではなく、困ったときに何に目を向け、どう動くかを伝えるものです。
「できるよ」と言うだけで、続けやすくなるわけではありません。やり方がわかること、必要な助けを使えること、失敗しても戻れること。そうした環境があって、声かけが力を持ちます。
まず結論
- 続けやすさに関わるのは、
もっと頑張れと押すことより、子どもが自分でも進めそうと思えて、次にすることがわかることです。[1][2] 頭がいいねのように人そのものを評価する言葉は、失敗したときに苦しくなることがあります。能力をほめるより努力に目を向ける方がよい場面はありますが、努力したねも、いつも最善とは限りません。[3][4][5][6][7] こうした知見を踏まえ、Sumliaでは「ヒントを使ってここまで進んだね」のように、子どもが実際にしたことを伝える方針です。- 保護者は関わる回数を増やすより、子どもが考えたり選んだりできる余地を残し、必要な手順やヒントを渡すなどの関わり方の方が大切です。[8][9][10]
まず知っておきたい言葉
自己効力感: 「むずかしいけれど、ヒントを使えば進めそう」のように、自分が次の行動を取れそうだと思える感覚です。[11]自律性を支える関わり: 子どもに丸投げせず、選ぶ・考える余地を残しながら、必要な説明やヒントも渡す関わり方です。干渉的な関わり: 急かす、細かく管理する、正解を先回りして教えるなど、子どもが自分で考える余地を奪いやすい関わり方です。
声かけを考えるときにわかっていること
声かけは、ただ気分を上げるものではありません。何に目を向けるか、次にどう動くかを伝える情報でもあります。
1. 「できそう」は、経験と一緒に育つ
学習の研究では、「自分にもこの課題に取り組めそうだ」と感じることと、学習への参加や継続との間に関係が見られます。[1]
計算の研究では、計算の練習と「自分にもできそう」と感じる支援を組み合わせることで、もともと自信が低かった子どもの数学への自信が伸びました。[2]
だから、苦手な子どもには「大丈夫、できるよ」と言うだけでなく、やり方を知り、ヒントを使い、実際に一問進めた経験が大切です。自己効力感は、ほめ言葉だけでつくるものではありません。
再開や再挑戦を支える方法もあります。学ぶ内容を自分の生活や将来とつなげると、続ける理由を持ちやすくなります。失敗したときに自分を責めすぎないこと、少し手を伸ばせばできる課題で「できた」を経験することも、次の挑戦を支えます。難しさを「自分には無理」の証拠ではなく、「大切なことに取り組んでいるサイン」と受け止めると、難しい課題に取り組みやすくなるという研究もあります。[12][13][14][15]
Sumliaでは、これらを「この一言で解決する」と考えず、問題・ヒント・振り返り・声かけを組み合わせるときの参考にしています。
2. 評価より、「次に何をするか」がわかる情報
フィードバック、つまり答えのあとに返す言葉や情報は、ほめる・しかるだけのものではありません。複数の研究をまとめた分析では、どこを直すか、どう考えたか、次にどう調整するかがわかる情報を含む方が、学習に役立ちやすいと整理されています。[16]
「よい・悪い」と評価するだけで終わるより、「どこを確認すればよいか」「次に何を試せるか」が見える言葉の方が、学習を続ける助けになります。
小学生の算数を扱った研究でも、正解・不正解だけでなく、返す内容や誰から返すかによって、次の問題への取り組み方が変わる可能性が示されています。[17]
3. 「頭がいいね」より、見えた行動を返す
「頭がいいね」「才能があるね」のように人そのものを評価する言葉は、うまくいかなくなったときに、「自分には才能がない」と受け取りやすくすることがあります。古典的な研究では、知能を褒められた子どもは、努力を褒められた子どもより、失敗後に続けにくく、学習を楽しみにくくなりました。[4]
では、「努力したね」と声をかければよいのでしょうか。
努力に目を向ける言葉は、能力を決めつける言葉より、失敗を自分の能力不足と受け取りにくくする方向に働くことがあります。実際、能力をほめられた子どもより、努力をほめられた子どもの方が、失敗後も続けやすかった研究があります。[5]
ただし、努力をほめればいつも最もよいわけではありません。小学5年生を対象にした研究では、努力をほめられた子どもと、正解数だけを伝えられた子どもでは、失敗後の成績の伸びに差は確認されませんでした。別の研究でも、努力を強調する言葉が、いつでも前向きに働くとは限らないことが示されています。[5][6][7]
自信の低い子どもでは、「あなたはすごいね」のような評価が、失敗したときの恥ずかしさにつながる場合もあります。[18] 能力について一切触れてはいけない、という意味ではありません。固定的な能力・人格ラベルを、いつもの声かけにしないことが大切です。[3][6][7]
こうした理由から、Sumliaでは「努力」という言葉を毎回増やすのではなく、実際にしたこと、使ったやり方、前の自分からの変化を返します。子どもを固定的な評価に押し込めないためです。何をしたか確認できないときは、無理に褒め言葉を足しません。
4. 保護者は、たくさん関わるより関わり方を選ぶ
親が宿題に関わる時間を増やせば、成績が上がるとは限りません。研究をまとめると、子どもの考えを聞く、選べるようにする、必要な手順やヒントを渡すといった支援的な関わりは、成績とよい関係にありました。一方、急かす、細かく管理する、答えを先に教えるといった関わりは、よくない関係にありました。[8][9]
これは、保護者が何もしない方がよいという意味ではありません。中学生の研究では、宿題を直接管理するより、学ぶ意味ややり方を一緒に考える関わりの方が、成績と強く関係していました。[10]
家庭で言えば、「教えてあげる」より「どう考えたのかを聞く」、「早くやって」より「どれから始めるかを選べるようにする」といった関わり方です。必要な支援は渡しながら、子どもが考える場所を残します。
5. 「親がしたこと」より、子どもがどう感じたか
ある調査では、一部の関わりについて、親の回答よりも子どもの回答の方が、学習への取り組みと関係していました。[19]
だから、通知の回数や確認した回数だけでは、保護者の関わり方はわかりません。応援されていると感じたのか、急かされていると感じたのか。その違いが大切です。
Sumliaの保護者画面でも、学習の回数を確認するだけでなく、今の様子に合わせた「今ちょうどいい声かけ」と伴走ヒントを表示しています。何をどう返すかを選びやすくするためです。
Sumliaで採用していること
ここまでの知見を、Sumliaでは次のように設計へ取り入れています。子どもが自分の力や変化に気づき、また取り組みやすくするための方針です。
- 正解や達成の場面では、「頭がいい」ではなく、実際にしたこと、使ったやり方、前の自分からの変化を返す
- 間違えた日や難しい日は、下降を責めるより、挑戦したこと、ヒントや例題を使って進めたこと、復習へ戻れる道を示す
- 毎日途切れず続いたかだけでなく、休みから戻れたことや、週単位で続いていることも大切にする
- 人と競わせず、過去の自分との比較と、自分の記録の積み上がりを見えるようにする
- 保護者には、監督や正解の代わりではなく、子どもの考えを聞き、選択や再挑戦を支えやすい文面を渡す
- 記録が足りないときは、汎用的な褒め言葉で埋めず、何も言わないことも選ぶ
Sumliaで採用していないこと
頭がいいね才能があるねのように、成功を固定的な能力や人格へ結びつける言葉- 赤バツや評価語を主役にしたフィードバック
- ランキングや他人との比較を、自己評価の中心に置くこと
- 保護者に正解を教えさせることを前提にした導線
- 学習中の常時監視を前提にした保護者向け機能
努力すれば必ずできる、難しいのは必ず成長の証拠といった、結果を保証する励まし
これだけで解決するとは考えていないこと
声かけや画面を整えれば、それだけで学習が続くわけではありません。
- 保護者向け機能を増やすほど、続けやすくなること
- グラフや進み具合を見せるだけで、自信がつくこと
- 一度の成功や前向きな言葉だけで、長く自信が続くこと
- すべての子どもに同じ声かけが合うこと
だからSumliaは、子どもが選ぶ余地を残します。能力を決めつけず、確認できた事実を返し、失敗したあとに戻れる道を置きます。声かけや画面が実際の継続にどう影響するかは、使われ方を見ながら確かめていきます。
関連ページ
- 習慣化と短時間反復の設計は 計算習慣化に関する研究ノート
- 設計思想全体と文献の採否方針は Sumliaの設計方針と研究背景
脚注
- [1]Bureau JS, et al. Pathways to Student Motivation: A Meta-Analysis of Antecedents of Autonomous and Controlled Motivations. 2022. PMID:35330866. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35330866/戻る
- [2]Koponen T, et al. Benefits of Integrating an Explicit Self-Efficacy Intervention With Calculation Strategy Training for Low-Performing Elementary Students. 2021. PMID:34421766. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34421766/戻る
- [3]Henderlong J, Lepper MR. The effects of praise on children's intrinsic motivation: A review and synthesis. 2002. PMID:12206194. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12206194/戻る
- [4]Mueller CM, Dweck CS. Praise for intelligence can undermine children's motivation and performance. 1998. PMID:9686450. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9686450/戻る
- [5]Xing S, et al. Effects of Ability and Effort Praise on Children's Failure Attribution, Self-Handicapping, and Performance. 2018. PMID:30333782. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30333782/戻る
- [6]Skipper Y, Douglas K. Is no praise good praise? Effects of positive feedback on children's and university students' responses to subsequent failures. 2012. PMID:22583094. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22583094/戻る
- [7]Bennett-Pierre G, et al. Effects of praise and "easy" feedback on children's persistence and self-evaluations. 2024. PMID:39111151. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39111151/戻る
- [8]Xu J, et al. Parental Homework Involvement and Students' Achievement: A Three-Level Meta-Analysis. 2024. PMID:38227295. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38227295/戻る
- [9]Jiang Q, et al. Parental homework involvement and students' mathematics achievement: A meta-analysis. 2023. PMID:37519352. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37519352/戻る
- [10]Hill NE, Tyson DF. Parental Involvement in Middle School: A Meta-Analytic Assessment of the Strategies That Promote Achievement. 2009. PMID:19413429. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19413429/戻る
- [11]Koponen T, et al. Benefits of Integrating an Explicit Self-Efficacy Intervention With Calculation Strategy Training for Low-Performing Elementary Students. 2021. PMID:34421766. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34421766/戻る
- [12]Asher MW, et al. Utility-value intervention promotes persistence and diversity in STEM. 2023. PMID:37126675. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10175781/戻る
- [13]Breines JG, Chen S. Self-compassion increases self-improvement motivation. 2012. PMID:22645164. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22645164/戻る
- [14]Uchida A, et al. An Induced Successful Performance Enhances Student Self-Efficacy and Boosts Academic Achievement. 2018. https://doi.org/10.1177/2332858418806198戻る
- [15]Oyserman D, et al. Guiding People to Interpret Their Experienced Difficulty as Importance Highlights Their Academic Possibilities and Improves Their Academic Performance. 2018. PMID:29887819. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5983065/戻る
- [16]Wisniewski B, et al. The Power of Feedback Revisited: A Meta-Analysis of Educational Feedback Research. 2020. PMID:32038429. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32038429/戻る
- [17]Merrick M, Fyfe ER. Right or wrong? How feedback content and source influence children's mathematics performance and persistence. 2024. PMID:38320356. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38320356/戻る
- [18]Brummelman E, et al. On feeding those hungry for praise: Person praise backfires in children with low self-esteem. 2014. PMID:23421441. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23421441/戻る
- [19]Liu K, et al. Parents' perception or children's perception? Parental involvement and student engagement in Chinese middle schools. 2022. PMID:36467250. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36467250/戻る
