子どものセルフトークを育てて心が折れにくい家庭学習を作る方法

宿題の途中で子どもの手が止まり、「わかんない。もうやだ……」と消しゴムで何度も消したり、ノートを見せたがらなくなったりする。そんな姿を見ると、親はつい「ちゃんとやりなさい」「さっき教えたでしょ」と言ってしまいがちです。
こうした場面では、親の声かけと同じくらい、子どもが心の中で自分に何と言っているかが大きく影響しています。この心の中の言葉を「セルフトーク」といいます。この記事では、心が折れやすいときのセルフトークのパターンと、つまずいても自分で立て直せる言葉の習慣を家庭で育てる三つのステップを紹介します。
セルフトークとは
セルフトークとは、人が心の中で自分に向けて話している言葉のことです。問題を読みながら「えーと、まずここから」とつぶやくのも、間違えたときに「またやっちゃった」と思うのも、セルフトークです。
私たちは、何かを理解したり問題を解いたりするとき、頭の中でいつも言葉を使っています。その言葉が「できないかも」「めんどくさい」でいっぱいになっていると、集中しにくくなり、考える力も働きにくくなります。
反対に、次のような言葉が自然に浮かぶ子は、つまずいても問題を分けて考え、気持ちに飲みこまれずにやるべきことへ戻ることができます。
- 「どこまでなら分かる?」
- 「さっきの問題と、どこが違う?」
- 「一つずつやれば大丈夫」
セルフトークは生まれつき決まっているものではなく、まわりの大人の言葉や、くり返しの経験を通して少しずつ育っていきます。家庭での関わり方で、変えていくことができるのです。
心が折れやすいときの、三つのパターン
少しつまずいただけで心が折れてしまうとき、子どものセルフトークは次のどれかになっていることがよくあります。
- 間違いを、自分の価値と結びつける:「間違えた=自分はだめだ」とまとめてしまう。本当は「この問題を間違えた」という事実にすぎないのに、自分そのものを否定する方向に考えてしまいます
- 0か100かで考える:「正解じゃなければ意味がない」「できないならやらない」と考える。途中までは合っていても、少しのミスを大失敗のように感じてしまいます
- 気持ちをそのまま言葉にする:イライラや不安を、そのまま「やだ」「わかんない」「もういい」という言葉にしてしまい、考えることが止まってしまいます
三つに共通しているのは、いま起きていることを、落ち着いて言葉で整理できていないことです。ここを親が少し手伝うことで、子どものセルフトークは変わっていきます。その場で「できない」と言われたときに、励ます前に何をするかは、「できない」と言う子どもへの声かけで順番を整理しています。
セルフトークを育てる、三つのステップ
家庭でできることを、三つのステップに分けて紹介します。
- 事実と、自分の受け止め方を分ける
- 自分を責める問いを、次を考える問いに変える
- 前向きな言葉より、具体的な言葉を使う
ステップ1:事実と、自分の受け止め方を分ける
子どもが落ちこんでいるとき、親はつい励ましたくなります。その前にしておくとよいのが、起きた事実と、それをどう受け止めたかを分けることです。
たとえば、テストで60点だった子が「もう終わりだ」「自分はばかだ」と言ったとします。このとき分けたいのは、次の二つです。
- 事実:テストは60点だった
- 受け止め方:自分はばかだと思った
この二つが混ざったままだと、子どもの中で、点数の話と自分の価値の話が一緒になってしまいます。親は、こんなふうに聞いてみてください。
- 「今回のテストで起きたことを、事実だけで言うと何かな?」
- 「そのとき、心の中ではどんなふうに思った?」
- 「『60点だった』と『自分はだめだ』は、同じことかな。別のことかな?」
これだけで、子どもの中に少し落ち着いて考える余地が生まれます。気持ちを消す必要はありません。まずは、整理できる状態を作ることが大切です。
ステップ2:自分を責める問いを、次を考える問いに変える
セルフトークがつらくなっている子は、心の中で自分を責める問いをくり返しがちです。
- 「なんで自分はこんなにだめなんだろう」
- 「なんでいつも失敗するんだろう」
こうした問いは、考えているように見えて、実際には自分を追いつめてしまいます。頭が「次にどうするか」ではなく、「だめな理由」を探しはじめてしまうからです。そこで、問いの向きを変えます。
- 「どこまでは分かっていた?」
- 「どこで止まった?」
- 「何がいちばん難しかった?」
- 「次に一つだけ変えるなら、何にする?」
- 「いま必要なのは、説明? 練習? 休憩?」
こうした問いは、自分を責めることではなく、いまの状況を知ることと、次の行動につながります。親がくり返しこの形で声をかけていると、やがて同じ問いが子ども自身の心の中にも浮かぶようになります。最初は親の声でも、続けるうちに子どものセルフトークになっていくのです。問いかけの形をもっと知りたいときは、子どもの行動を変える質問の仕方も参考にしてください。
ステップ3:前向きな言葉より、具体的な言葉を使う
セルフトークというと、「大丈夫!」「できる!」のような前向きな言葉を思い浮かべる方が多いと思います。役に立つ場面もありますが、子どもが本当につまずいているときに、現実とかけ離れた励ましを重ねると、心の中で「いや、できてないし」と反発が起きることがあります。
こういうときに役立つのは、前向きさより、次に何をするかが分かる具体的な言葉です。
- 「頑張ろう」→「次は、問題文の数字に丸をつけながら読もう」
- 「ちゃんとやろう」→「最初の1問だけ、式を書いてみよう」
- 「次こそできるよ」→「次は、計算を間違えやすいところだけ見直そう」
小学4〜6年生を対象に、算数に取り組む前に心の中で唱える言葉を比べた研究でも、同じ方向の結果が出ています。「ぼくはこれが得意だ」と唱えたグループと、「いまできるかぎりのことをやる」と唱えたグループを比べると、とくに算数に自信のない子で、後者のほうが成績がよくなっていました。「得意だ」と言い聞かせるほうには、目立った違いは見られませんでした。
自信がゆらいでいる子には、自分の能力を宣言する言葉より、これから何をするかを宣言する言葉のほうが支えになりやすい、ということです。
- 「ぼくは算数が得意」→「今日は、最後の1問まで手を動かす」
- 「わたしはできる子」→「いまできるところまでを、ていねいにやる」
気持ちが強い日は、自分を名前で呼んでみる
もう一つ、知っておくと役に立つ方法があります。気持ちがいっぱいになっているとき、心の中の言葉を、「わたしは」「ぼくは」ではなく、自分の名前で呼ぶ形に変えることです。
- 「わたし、もうだめかも」→「ゆい、まず1問目だけ読もう」
- 「ぼく、緊張してきた」→「たける、最初の式だけ書けばいい」
少し不思議に思えるかもしれませんが、人前で話す場面などを扱った大人の研究では、自分を名前で呼ぶセルフトークのほうが、緊張や、終わったあとにくよくよ考えこむ時間が減った、という結果が出ています。自分を「わたし」と語ると気持ちの中に入りこみやすく、名前で呼ぶと、少し離れたところから自分を見る位置に移りやすいのだと考えられています。子どもで同じように確かめた研究はまだ多くありませんが、試して失うものはない方法です。
家庭では、親が先に使ってみせるのがいちばん簡単です。「ゆい、いまどこで止まってる?」と名前で聞く形は、責める響きが出にくく、子どもがそのまま自分の中に取りこみやすい言い方でもあります。
こうした言葉の習慣は、勉強の場面だけでなく、友だちとのトラブルや、習い事でうまくいかなかったときにも使えます。自分の考え方に気づく力そのものについては、子どものメタ認知とは何かで紹介しています。
親がいつも完璧な言葉を選ばなくていい
ここまで読んで、毎回こんなふうに声をかけるのは難しい、と感じた方もいるかもしれません。大丈夫です。親がいつも完璧な言葉を選ぶ必要はありません。大切なのは、子どもがつまずいたとき、心の中でどんな言葉を流しているかに、親が気づこうとすることです。
そして、同じことは親自身にも言えます。「また怒ってしまった」「自分はだめな親だ」。そんなセルフトークが出てきたら、子どもと同じように、事実と受け止め方を分けてみてください。
事実は、「今日はきつい言い方をしてしまった」かもしれません。でも、そこから「自分はだめな親だ」まで一気に飛ぶ必要はありません。
- 「うまくいかなかった場面はあった」
- 「でも、関わり方をよくしたいと思っている」
- 「次は一つだけ、言い方を変えてみよう」
このくらいで十分です。親も子も、完璧である必要はありません。少しずつ、自分を立て直しやすい言葉を増やしていけばいいのです。次に子どもが「わかんない」と言ったら、「どこまでなら分かる?」と一つだけ聞いてみてください。
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Author
石田憲太朗
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