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計算が速い子は算数が得意? 夜のリビングで「速さ」と「得意」がすれ違う話

計算が速い子は算数が得意? 夜のリビングで「速さ」と「得意」がすれ違う話

「計算が速い子は、算数も得意なの?」と、暗算の速さやタイムを見ながら迷う夜があります。速さを含む四つの力に分けると、伸ばしたいところと、もう育っているところが見えやすくなります。

「23たす19は?」

「42」

こちらが指を折り始めるより早く答えが返ってくる。うれしい。うれしいのだけれど、その同じ子が、次の日には文章題のページを開いたまま、鉛筆を持って固まっている。「何算をすればいいの」と聞かれて、こちらも一瞬、答えに詰まる。

逆のパターンもある。計算はゆっくりで、ひっ算の途中でよく手が止まる。なのに、お風呂の中で「割り算って、分けるんじゃなくて“何回引けるか”ってことでしょ」と、こちらが教えていないことを言い出す。

どちらの子も、うちにいる。あるいは、どちらかが、うちにいる。

「計算が速い=算数が得意」というのは、たぶん多くの家で、半分は信じられていて、半分は疑われている。今夜はその「半分」の正体を、一度ちゃんと分けてみたい。結論から言えば、速さは得意の有力な手がかりである。そして、速さだけでは判定できない領域が、確かにある。

速さは、思っている以上に「効く」

計算の速さやなめらかさは、後の文章題にも関係する大切な土台です。 まず、計算が速い子をほめたい親の側の味方をしておく。速さは、ただの飾りではない。

数百人の子どもを2年生から4年生まで追いかけた研究がある。2年生の終わりに「計算が正確か」「計算が速くなめらかか」を別々に測り、4年生で文章題と、文字を使うような一段上の問題がどれだけ解けるかを見た。結果は、速くなめらかに計算できた子ほど、2年後の文章題もよく解けていた。ほかの認知能力や最初の算数の力を差し引いても、この関係は残った。

似た結果は、別の国の別の学年でも出ている。4年生の途中で計算がなめらかな子は、学年末の問題解決の力が高い。2〜3年生で引き算やかけ算がすらすら出る子は、翌年の文章題や図形の測定でも点が伸びている。

つまり、「計算が速い子は算数が得意なことが多い」という肌感覚には、根拠がある。

理由も、たぶん想像できる。頭の中の作業台は狭い。「7たす8」に作業台の半分を使っている子と、「7たす8」が反射で出てくる子では、文章題を読んで「これは何算か」を考えるために残っている作業台の広さが違う。速さは、考えるための空きスペースを作ってくれる。

ここまでなら、話は簡単だ。「じゃあ、速くする練習をすればいい」となる。

そう思った、とは言っておく。

「速くする練習」をしたら、算数全体は伸びるのか

計算を速くする練習だけでは、文章題や一段上の問題まで自動的には伸びません。 この考えを正面から試した実験がある。

算数が苦手な3年生を、くじ引きで3つのグループに分けた。一つめは、基本の計算を素早く出せるようにする練習を集中的にやるグループ。二つめは、文章題と計算と一段上の問題を組み合わせて教えるグループ。三つめは、普段どおりのグループ。

計算を速くする練習をしたグループは、たしかに計算が速くなった。ひっ算のような、近い作業もいくらか良くなった。

ただ、文章題は伸びなかった。一段上の問題も、はっきりとは伸びなかった。

一方、組み合わせて教えたグループは、計算も速くなり、ひっ算も文章題も一段上の問題も、まとめて伸びていた。

これは、かなり直接的な答えだと思う。速さは算数の土台である。でも、土台だけを固めても、その上に家は勝手には建たない。

「計算が速い子は算数が得意なことが多い」という最初の観察は、たぶん順番が逆に見えていたのだ。計算が速いから算数ができるようになった、というより、算数のいろいろな力が育っている子は、計算も速くなっていることが多い。速さは結果として現れやすい、目に見える部分だった。

では、速さの練習は無駄なのか。それも違う

意味を理解したうえで速く出す練習をすることには、計算力を伸ばす価値があります。 ここで「じゃあタイムを測るのはやめよう」となるのは、早すぎる。

もう一つ、1年生で行われた実験がある。こちらは、算数につまずきそうな子どもたちを2グループに分け、どちらにも25分間、数の意味をきちんと教えた。違うのは最後の5分だけ。一方は時間を意識して計算する練習、もう一方は時間を気にせず計算する練習をした。

結果、時間を意識した5分のグループは、簡単な計算でも、少し複雑なひっ算でも、はっきり良くなった。

そして、数の意味の理解と文章題では、二つのグループにほとんど差がなかった。

ここから読み取れることは二つある。一つは、意味を理解した上での「速く出す練習」には、ちゃんと価値があるということ。もう一つは、その価値は計算の範囲に現れ、文章題や理解の側にはあまりはみ出さないということ。

たとえるなら、速さの練習は、包丁の研ぎに近い。研いだ包丁は切れる。でも、研いだからといって献立が浮かぶわけではない。

「算数が得意」は、一枚岩ではない

算数の力は、計算速度だけではなく、数の理解・推論・記憶・注意・ことばなどから成り立っています。 冒頭の、お風呂で割り算の正体を言い当てた子の話に戻る。

あの子は計算が遅い。でも「割り算とは何回引けるかだ」と自分で気づいている。この気づきは、計算の速さとは別の場所で育っている力だ。

4年生の文章題と一段上の問題を細かく調べた研究では、計算の速さのほかに、こんな力がそれぞれ独立に効いていた。

  • 数そのものの理解(10のまとまり、数の大きさの感覚)
  • 筋道を立てて考える力
  • 頭の中でいくつかの情報を同時に持っておく力
  • 気が散らずに取り組む力
  • ことばを読んで意味を取る力

とくに文章題では、2年生のときの「ことばの理解」が、2年後の文章題の出来を直接予測していた。計算がどれだけ速くても、「あわせて」「のこりは」「一人あたり」が何を求めているのか読み取れなければ、鉛筆は動かない。

幼児期から追いかけた別の研究では、算数の力が育つ道は一本ではなく、「量の感覚の道」「ことばの道」「空間と注意の道」の少なくとも三本があると報告されている。どの道が広いかは、子どもによって違う。

つまり「算数が得意」は、一つの目盛りではない。計算の速さは、その目盛りの一本にすぎない。太い一本ではあるけれど、一本である。

「タイムを測った計算」が測っているもの

タイム付き計算の数字には、理解だけでなく、不安・注意・選んだ解き方も混ざります。 百ます計算やタイムアタックの数字を見る夜に、考えておきたいことがある。

時間の圧がかかると、子どもの中で何が起きるかを調べた研究をまとめて見た報告がある。時間を区切られると、子どもは解き方を変える。ゆっくりなら使える確実な方法をやめて、当てずっぽうに近い速い方法に切り替える子がいる。頭の中の作業台の使い方が変わる。正確さが落ちる子がいる。そして、算数への不安が強い子ほど、この影響を受けやすい。

証拠の数はまだ少なく、研究者たち自身も「はっきり言い切れる段階ではない」と書いている。それでも、方向は見えている。

タイム付きの計算の点数には、「算数の理解」以外のものが混ざる。頭の回転の速さ、反射で出せる計算の量、不安、注意、その日に選んだ解き方。冒頭の、23たす19を一瞬で答えた子のタイムは、たしかにその子の何かを表している。でも、それが「算数の理解」そのものだと読むのは、読みすぎになる。

逆も言える。タイムが伸びない子を「算数が苦手」と読むのも、読みすぎである。もしかしたらその子は、時間を区切られるとうまく動けない子なだけかもしれない。

家で見るなら、四つに分けて見る

家で見る算数の力は、「正確さ・意味・速さ・使い方」の四つに分けると整理できます。 「速いか遅いか」の一本の目盛りではなく、次の四つを別々に見ると、見える景色が変わる。

  1. 正確か:ゆっくりでいいから、合っているか
  2. 意味が分かっているか:「なぜ42になるの?」に、自分のことばで何か言えるか
  3. 速くなめらかか:考えなくても出てくる計算が増えているか
  4. 使えるか:文章題や初めて見る問題で、どの計算を使うか自分で選べるか

順番も、だいたいこの通りでいい。正確さが先。意味が次。速さはその後。そして、速さを鍛える練習を入れるのは、正確に解けるようになってからのほうがいい、というのが、近年の研究レビューが勧める方向である。正確さがまだ揺れている段階でタイムを測ると、子どもは正確さを捨てて速さを買いに行くことがある。

四つに分けると、冒頭の二人が、それぞれ違う場所にいることが分かる。

23たす19を一瞬で答えた子は、3が強い。1もたぶん大丈夫。固まっていたのは4のところで、もしかしたら2のところも、聞いてみないと分からない。この子に必要なのは、もっと速くする練習ではなく、「この問題、何を聞かれてると思う?」と一緒に文章を読む時間かもしれない。

お風呂で割り算の正体を言った子は、2が強い。遅いのは3で、そこは、意味が分かっている今だからこそ、少しずつ速さの練習を足していい段階に来ている。「遅いから苦手」ではなく、「意味が先に育った子」と読み直せる。

明日、何を見るか

速さは有力な手がかりですが、「得意」の全部でも「苦手」の証拠でもありません。 速さは、算数の大切な土台である。それは間違いない。

でも、速さは「得意」の全部ではない。そして、速さがまだ出ていないことは、「苦手」の証拠ではない。

だから、明日タイムを測る前に、一つだけやってみてほしいことがある。子どもが解き終わった計算を一問だけ指さして、「これ、どうやって出したの?」と聞いてみる。速く答えた子が、意味を語れるか。遅かった子が、案外ちゃんと道筋を持っているか。

タイムには出ない答えが、たぶん返ってくる。

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Author

石田憲太朗

運営・開発

家庭で続けやすい学習設計を、研究知見と実装の両面から改善しています。

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