学習習慣を行動科学でつくる:「やらせる勉強」から抜け出す方法

「今日もまた『勉強しなさい』と言ってしまった」と後悔しながら、毎日同じことをくり返している親御さんは少なくありません。言わなければ始まらない気がするし、言えば言ったで、子どもは不機嫌になってしまいます。
うまくいかないのは、親の愛情が足りないからでも、子どもの根性がないからでもありません。多くの場合、問題は性格ではなく、勉強が始まるまでの仕組みにあります。この記事では、行動科学の考え方をもとに、「言われてやる勉強」から「自分で始める勉強」へ少しずつ切り替えていく方法を紹介します。
「やらせる勉強」は、なぜ続かないのか
勉強する理由には、大きく分けて二つあります。
- 外からの理由:怒られたくない、ご褒美がほしい、褒められたい
- 内側からの理由:分かるとうれしい、前よりできると気持ちいい、自分で進められると達成感がある
外からの理由は、すぐに効きます。「勉強しなさい」と言えば、子どもはその場では動きますし、「終わったらゲームしていいよ」と言えば、宿題は早く終わるかもしれません。言わないと始まらない、という親の感覚は、決して間違っていません。
ただ、外からの理由だけで動いている勉強には、弱いところがあります。言われたから始める勉強は、言われない日には始まらないのです。始めるきっかけがいつも親の声になっていると、子どもの側では「勉強は、言われてからやるもの」になっていきます。言われる前に始める理由がなくなり、言われれば言われたで「いまやろうと思ってたのに」と反発したくなる。
もう一つは、自分で決められることがほとんどない、という点です。いつ、どこで、何から、どれだけやるか。全部を外から決められていると、同じ量を勉強していても、「自分の勉強」という感覚は育ちにくくなります。人は大人でも、自分で選んだことのほうが続けやすいものです。
自分から始める勉強に近づける、三つの工夫
「やらせる勉強」から抜け出すといっても、いきなり子どもに全部を任せるわけではありません。親が担っていることのうち、次の三つを、少しずつ子どもの側に渡していきます。
- 始めるきっかけを、親の「勉強しなさい」から、生活の流れに変える
- やることの中に、子どもが選べるところを一つ作る
- 勉強する意味を、親が説明するのではなく、子どもに考えてもらう
一方で、だいたいの時間の範囲や量の上限といった大きな枠は、引き続き親が決めてかまいません。枠の中で子どもが自分で決められることが増えるほど、「やらされている」感覚は薄れていきます。三つを一度に変える必要はないので、いまいちばんこじれている場面に近いものから試してみてください。
工夫1:始めるきっかけを、生活の流れに変える
最初に変えたいのは、勉強を始めるきっかけです。親の「勉強しなさい」の代わりに、手洗いやおやつのような、毎日の生活の中にある出来事をきっかけにします。
- 帰ってきて手を洗ったら、ドリルを開く
- おやつのお皿を片づけたら、机のライトをつける
- 朝ごはんを食べ終わったら、計算を3問
きっかけが決まったら、親の役割は「勉強しなさい」と言うことから、決めたきっかけを思い出させることに変わります。「手を洗ったね」とひと言かけるだけで、始めるかどうかを決めるのは子ども自身になります。仕事で帰りが遅く、子どもが一人で勉強を始める家庭ほど、この形は役に立ちます。算数の中身が増える時期にこの形をつくる理由は、小3・小4の算数の家庭学習で大切にしたいことで紹介しています。
きっかけの決め方や、最初の量の小さくし方は、小学生の勉強習慣の付け方で五つの条件として詳しく紹介しています。
工夫2:やることの中に、選べるところを一つ作る
次に、子どもが自分で選べるところを作ります。ただし、選ぶのは「やるか、やらないか」ではありません。やることは決まっていて、その中の一部を子どもに決めてもらいます。
- 順番:「算数と漢字、どっちから始める?」
- 場所:「リビングと自分の部屋、どっちでやる?」
- 量:「今日は3問と5問、どっちにする?」
とくに高学年になると、この「一つだけ選べる」が効いてきます。親に全部決められることへの反発が強くなってくる時期だからです。子どもが選んだら、その選択には口を出さないのがポイントです。算数から始めると言ったのに漢字から始めていても、始まっていれば、それで十分です。
「勉強しなさい」を、子どもが選べる問いかけに置き換える具体的なフレーズは、勉強しない子どもへの声かけで場面別に紹介しています。
工夫3:勉強する意味を、子どもに考えてもらう
三つ目は、勉強する意味の伝え方です。「将来困るよ」「いい学校に行くためだよ」と親が説明するのは、間違いではありません。ただ、何年も先の話は小学生には実感しにくく、言われるほど「またその話か」と聞き流されやすくなります。
勉強の意味は、親が説明するより、本人が自分で見つけたときのほうが心に残ります。大学の授業で、「この勉強が自分の生活の何に役立つか」を、先生が説明するのではなく学生自身に書いてもらった大規模な実験があります。書いた学生は、書かなかった学生に比べて、2年以上たっても理系の勉強を続けている人が多くなっていました。興味そのものが大きく変わったわけではありませんでした。小学生で同じように確かめたものではありませんが、「意味は、本人が見つけたときに残る」という考え方は、家庭でも使えます。
家庭では、説明をやめて、一度だけ聞いてみてください。
- 「このわり算、どこかで使えそう?」
- 「漢字が読めると、何が楽になる?」
返ってくる答えは、たいてい小さなものです。「おやつを分けるとき」「ゲームの説明が読める」。それで十分です。親が考える「将来のため」より小さくても、子どもが自分の言葉で言った意味のほうが、次に机に向かうときに思い出されます。「わかんない」と言われたら、その日はそれで終わりにしてかまいません。
任せることと、放っておくことは違う
子どもに渡していくといっても、全部を任せて放っておくわけではありません。枠を作るのは、引き続き親の役目です。
- だいたいの時間の範囲:「夕ごはんまでのどこかで」
- 量の上限:「多くても10問まで」
- 丸つけの場所:「丸つけはリビングで一緒に」
枠がないまま「自分で決めて」と言われると、子どもは決めることそのものに疲れてしまいます。枠があるから、その中で安心して選べるのです。任せる範囲は、子どもが自分で選んだことを守れるようになってから、少しずつ広げていきます。
よくある三つの疑問
ここまで読んで、次のような疑問を持った方もいるかもしれません。
選ばせたら「やらない」を選ぶのでは?
選んでもらうのは、やるかやらないかではなく、やることの中の順番や場所や量です。それでも「今日はやらない」と言われたら、「じゃあ、1問と3問ならどっち?」と、やる前提のまま小さな選択肢に戻します。それでも動かない日は、その日の量や内容が合っていないというサインとして受け止め、きっかけや問題の難しさを見直してみてください。
枠を決めるのが親なら、結局は親が決めているのでは?
そのとおりで、枠は親が決めています。ただ、枠の中身まで毎回親が指示するのと、枠だけを決めて中は子どもが選ぶのとでは、子どもの受け取り方はかなり違います。小さな選択でも、自分で決めた経験は「自分の勉強」という感覚につながります。
高学年になってからでは、もう遅いのでは?
遅くはありません。むしろ高学年のほうが、選べるところを渡したときの変化がはっきり出やすいくらいです。ただ、長く「勉強しなさい」でやってきた家庭ほど、最初の数日は子どもが様子を見ます。すぐに変わらなくても、1〜2週間は続けてみてから判断してください。
変化は、点数より先に「声をかける回数」に表れる
こうした工夫の効果は、点数よりも先に、親が「勉強しなさい」と言う回数に表れます。一週間に何回言ったか、子どもが始めるまでに何分かかったか。先月の自分たちと比べて、どちらかが少しでも減っていれば、勉強を始めるきっかけは子どもの側に移りはじめています。
「勉強しなさい」と言ってしまう日があっても、それで台なしになるわけではありません。次にその言葉が出そうになったら、代わりに「算数と漢字、どっちから始める?」と、一つだけ子どもに選んでもらうところから試してみてください。
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Author
石田憲太朗
創業者・運営者
家庭で続けやすい学習設計を、研究知見と実装の両面から改善しています。
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