算数学習で小3・小4のうちに重要視すべきことトップ3|中身より「始まり方」

小3・小4になると、割り算、分数、小数と、算数の中身が一気に増えます。この時期に何を勉強させるかより先に重要視したいことを優先順位で並べると、上位の3つはどれも、算数が「親の声なしで始まる形」になっているかに関わっていました。
小3・小4は、算数の景色が変わる2年です。九九が終わって割り算が入り、分数と小数が顔を出し、文章題は読む量が増えます。学校の宿題も増えて、親が隣に座って見られる時間は、上の学年に行くほど減っていきます。
だから親は、まず中身を考えます。計算ドリルを足すか、文章題の問題集にするか、少し先取りをするか。私もそうでした。それは半分正しくて、この時期に何を解かせるかは、たしかに大事です。
ただ、隣で見てきた子どもたちを思い出すと、小5・小6になって算数が重くなっていった子に共通していたのは、中身の選び方の差ではありませんでした。教材を出すまでが長い。「あとで」で始まらない。親が言えば言うほど始まらなくなる。算数が始まるかどうかが、毎回、親の声と子どもの機嫌にかかっていたことです。この2年で重視したいのは、中身より先に、算数が自分で始まる形をつくることだと思っています。
先に順位。小3・小4で重視したいのは「合図・大きさ・役」
この時期の家庭の算数で優先したいことを3つに絞ると、次の順になります。
- 合図を「毎日すでに起きること」に固定する。 親の声を開始の合図から外す。子どもの目標達成を調べた研究にいちばん直接支えられている
- 始めたその場で終われる小ささにする。 合図の後ろに大きな行動があると、合図は効かない。短く分けたほうが算数は残りやすい
- 選ぶのは子ども、そろえるのは親。 口出しや先回りは逆向きに働く報告が多い。1位・2位が回り始めてから効く
この順位は、三つを直接くらべた実験の結果ではありません。研究の直接さ、効きの大きさ、家でやりやすいか、うまくいかなかったとき何を失うか、を合わせて私が並べたものです。小3・小4の家庭での算数だけを追いかけた研究は少なく、子どもの目標達成、習慣づくり、算数の学び方、親の関わり方の研究をつないで読んでいます。
三つとも一度にそろえる必要はありません。試してみるなら、1位だけで足ります。「__が終わったら、__で、算数を__だけ」の空欄を、子どもと一緒に埋める。それだけで、親の仕事が「声をかける」から「合図が来たか見る」に変わります。
1位: 合図は親の声ではなく、毎日すでに起きていることに固定する
「夕食の食器を下げたら、いつもの席で、算数の教材を開く」のように、合図を出来事につなぐと、開く回数が増えます。朝にやる家なら「朝ごはんの食器を下げたら」、帰宅後なら「ランドセルを置いたら」で同じです。
この2年でこれを1位に置くのは、小3・小4が、親の声がまだ届くうちの、終わりに近い時期だからです。小5・小6になると、習い事や塾で家にいる時間がずれ、親が声をかけられる場面そのものが減ります。合図が親の声のままだと、算数は声と一緒に消えます。合図を出来事に移しておく時期として、この2年がちょうどいいと思っています。
夕食後の歯みがきを思い出すと分かりやすいです。あれは、やる気で始めていません。「食べ終わった」という出来事に、歯ブラシを取るという小さな動作がくっついているだけです。小3にもなると、毎晩「歯みがきやる?」と聞く家は減ってくると思います。算数の合図も、同じ場所に置けます。
「声をかけるのをやめたら、始まるはずがない」と、私は思っていました。ところが、こう決めた子どもたちを追いかけた研究をまとめて見た報告があります。1万人を超える子どもを含む数十本の研究にまたがって、「もし〇〇したら、そのとき△△する」の形で決めた子は、決めなかった子より目標に届きやすくなっていました。効きは小さめですが、向きは変わりません。そして、年の低い子ほど効きやすい傾向がありました。研究に含まれた子の平均は小4か小5くらいで、小3・小4はそれより少し下、効きやすい側にいます。大人の学習でも、場所と直前の行動を固定した人ほど、その学習が考えなくても始まる形に近づいていた、という同じ向きの結果があります。
決めるのは4点です。
- 直前の行動: 「夕食の食器を下げたら」「朝ごはんのあと」「ランドセルを置いたら」。「19時になったら」だけにはしない。時計を見張り続けるのは、この年の子にはまだ難しい
- 場所: 毎回同じ机、同じ席。曜日で場所を変えない
- 最初の動作: 教材を開く、日付を書く。「勉強を始める」は大きすぎて動作にならない
- 最低行動: 3問、または5分。机に来るまでが長い日は1問。「終わるまで」にはしない
「もし〇〇したら」の〇〇に、親の声は入れません。「お母さんが言ったら」を合図にすると、合図を出すたびに親子の関係が試されます。食器を下げる、という出来事は、誰の機嫌にも関係なく毎回やって来ます。
紙に書いて、机の見えるところに貼っておくと、合図を思い出す仕事も親から紙に移ります。
2位: 最初は、始めたその場で終われる小ささにする
合図の後ろに20分の勉強が待っているなら、どんな合図も効きにくくなります。最初の一週間は、量より「合図のあとに開いた回数」を増やします。
「合図を決めても、うちの子は始めない」。そう言われることがあります。たいてい、合図のすぐ後ろに大きな行動がつながっています。教材を開いたら、そこから20分やらないといけない。子どもはそれを知っているので、開く前で止まります。歯みがきが毎晩できるのは、3分で終わると分かっているからです。
目安はこうです。ただし「3分や5分がいちばん良い」と証明されたものではありません。家で回しやすい線として私が置いています。
- ふだんの線: 3〜5問。時間なら5分くらい。慣れてきたら8〜10分
- 机に来るまでが長い日、休み明けの日: 1問だけ。または3分
- 中身: ほとんどは一人で解ける、少し前に習ったこと
- 少し考える問題: 入れても1問
- 終わり方: 決めた問題数か時間で終わる。「もう少し」を足さない
「5問じゃ意味がない」という声も分かります。小3・小4は宿題も増えるので、家で足すなら量を、と思いやすい時期です。私も、やるなら20分と思っていた時期がありました。ただ、最初の一週間にやっているのは算数の量を増やすことではなく、「食器を下げたら教材を開く」という一連の流れを体に覚えさせることです。ここで量を欲張ると、流れが身につく前に止まります。
算数の学び方を追いかけた研究のまとめでも、一度に長くやるより、短く何回にも分けたほうが残りやすい、という向きが出ています。大人の習慣づくりを調べた報告でも、行動が単純で実行しやすいほど習慣になりやすい、とされています。一方で、「小さく始めれば小学生の算数の習慣が定着する」と、その順番で直接確かめた研究はまだありません。ここは研究の結論というより、この二つをつないだ私の見立てです。
「もう少しやりたい」と子どもが言った日も、決めた線で終えていいと思います。終わりが見えていることが、次の日また開く理由になります。
3位: 選ぶのは子ども、そろえるのは親
やるかどうかは選ばせず、中身と順番だけ2択にします。親は教材と場所をそろえ、解き方には呼ばれたときだけ入ります。
これを小3・小4のうちに渡しておきたいのは、小5以降、親が隣にいない時間帯の算数が増えるからです。そのとき「何からやるか」を自分で決めた経験があるかどうかで、一人の時間の始まり方が変わります。合図から親の声を外すと、「じゃあ私は何をすればいいのか」が空きます。歯みがきなら、歯ブラシを置いて、たまに仕上げをする役です。算数でも同じで、親の仕事は始める前と終わったあとに寄せます。
2択の例です。
- 開く前: 「今日はかけ算5問と文章題1問、どっちからやる?」
- 道具: 「紙とタブレット、どっちでやる?」
- 量: 「5分で終える? 余裕があれば8分いく?」
「今日やる? やらない?」は2択にしません。合図が来たら開く、は動かさず、その中で選ぶ幅を渡します。自分で選んだ子は、開くところまでは自分の足で来ます。
親の役は三つに絞ります。
- 教材、鉛筆、消しゴム、答えを1か所に置いておく
- 解き方には、本人が「わからない」と言ったときだけ入る
- 終わったら、正解数より「始めたこと」「使った工夫」を言葉にする
三つめの言葉は、事実に意味を添える形にします。「食器を下げてすぐ開いたね。始めるところがいちばん大変なのに」「図をかいて考えたんだね」のように、その日にその子が実際にやったことを指します。「頭がいいね」だと、本人は自分が何をしたのか分からないので、次の日につながりません。
宿題への親の関わり方を調べた研究をまとめて見た報告があります。子どもに考えさせ、「できそうだ」と信じて見守る関わりは、算数の出来と小さく正の向きに結びついていました。逆に、横から口を出す、急かす、親が解いてしまう関わりは、逆の向きに出ていました。多くは追いかけて観察した調査なので、どちらが原因かは言い切れません。それでも、先回りして教えた日に子どもの鉛筆が止まるのは、私の家でも見てきたことです。7〜9歳の子に、工夫を名指しした声かけを続けた小さな実験でも、「自分にもできそう」という感覚が上がった報告があります。
順位の読み方。うちの家は、どこから手をつけるか
三つのうちどこで止まっているかは、家によって違います。止まり方から逆に読むと、直す場所が一つに絞れます。
- 声をかければやるが、かけるまで動かない: 1位から。合図を出来事に移して、紙に書いて貼る
- 合図は来るのに、教材を開く前で止まる: 2位から。最低行動を1問か3分に下げ、中身を「一人で解ける」に寄せる
- 開くけれど、途中で親と言い合いになる: 3位から。解き方には呼ばれたときだけ。直すのは1問
- 三日続いて、四日目に抜けた: どこでもない。次のいつもの合図から再開して、抜けた日を数え直さない
四つめは失敗ではありません。大人の習慣づくりを追いかけた調査では、一回抜けたことで全体が崩れることは、はっきりとは見られませんでした。ルールは「休んだら、次のいつもの合図から」で足ります。休んだ翌日に倍やらせると、合図の後ろの行動が大きくなって、今度は2位から崩れます。
親の帰りが遅くて隣に座れない家でも、朝の支度の合間にしかやれない家でも、順位は変わりません。合図を親のいる時間に置かなくていい、というのが1位の中身なので、むしろそういう家ほど1位から効きます。
カレンダーの○は、子ども本人がつける記録として役に立ちます。抜けた日は空けたままにして、連続の日数は数えません。シールや終わったあとの短い遊びは、開くための補助にはなりますが、主役にすると「自分で選んで自分で終えた」感覚のほうが薄れます。時間を測るのは短い計算練習に限り、文章題や図形まで速さの勝負にはしません。時間を測ると、測らないときより鉛筆が進まなくなる子は、測らないほうがいい場合があります。
最初の2週間の形
- 1〜3日目: 3〜5分。一人で解ける、少し前に習ったこと。答え合わせまでその場で。親は開いた事実に、一言だけ意味を添える
- 4〜7日目: 5〜8分。中心はそのまま、少し考える問題を1問。2種類から選ばせる。間違いは1問だけ確認
- 8〜14日目: 8〜10分。最近習ったことに少し前のことを混ぜる。声かけを減らし、記録は子どもが書く
2週間で見るのは、正解数だけではありません。
- 14日のうち、何日開いたか
- 親の声なしで開いた日が、何日あったか
- 開くまでの時間が短くなったか
- 一人で解けた問題が増えたか
このうち二つめが増えていれば、算数の量が増えていなくても、この2週間は育っています。2週間は、合図と大きさを調整する試用期間です。大人を追いかけた報告では、考えなくても始まる形になるまで数か月かかることが多く、人によって差も大きいので、「21日で定着」のような期限は置かないほうが安全だと思います。
小5の景色から、逆に数える
小5になった子が、親のいない放課後に、ランドセルを置いてそのまま席に座り、算数のファイルを開く。親は帰ってきてから、開いた跡を見るだけ。小3・小4のうちに重視したいことを三つに絞ったのは、この景色から逆に数えたからです。解く中身は学年ごとに変わりますが、始まり方は一度できると、次の学年に持ち越せます。
一つだけ、試してみてほしいことがあります。紙に一行だけ書いてみる。「__が終わったら、__で、算数を__だけ」。空欄は子どもに埋めてもらいます。「食器を下げたら」「いつもの席で」「3問だけ」でも、「朝ごはんのあと」「こたつで」「1ページの半分」でも構いません。
声をかけない日に、その子が自分で開くかどうか。それを確かめる場所は、子どもの隣ではなく、台所や別の部屋でいいのだと思います。
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Author
石田憲太朗
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