勉強しない子どもへの声かけ:「勉強しなさい」の代わりに使う3つの問い

「勉強しなさい」と言うほど、勉強しない子どもは机から遠ざかっていきます。命令をやめて何を言えばいいかを、理由をひとつと、順番に使う3つの言い方に絞りました。
「勉強しなさい!」
言いたくて言っているわけではないですよね。子どもの将来が気になって、今日くらいは自分から始めてほしくて、気がついたら今日も同じセリフを発してしまう。私も言っていました。言えば、その日はしぶしぶ動く。「言わないと始まらない」という感覚は、外れていません。ただ、当たっているのはその日の分だけです。
ただ、隣で見てきた子どもたちを思い出すと、言われて始めた日の次の日は、始まるまでの時間がいつも少し長くなっていました。言えば言うほど、顔をしかめるか、無視するか、反抗するか。そのたびに「なんでわかってくれないの?」とつらくなり、あとで一人になってから自己嫌悪に陥る。
それはあなたが悪いわけではありません。ほとんどの親が「命令する以外のやり方」を、誰からも教わっていないだけです。
命令を、順番のある3つの問いに置き換える
「勉強しなさい」が効かないのは、子どもの「自分で決めたい」を壊すからです。だから代わりの言葉は、決める余地を子どもに戻す形にします。順番はこの3つです。
- 気持ちを聞く。「今、始めるのしんどい感じ?」
- どうやるかを選ばせる。「算数と国語、どっちからならやれそう?」
- 行動を小さく区切る。「まず5分だけ、漢字のドリルやってみない?」
親の立場でいうと、「監督」から「チームメイト」への持ち替えです。上から「やれ」と指示する人ではなく、一緒に作戦を立てる人。この立場に変えるだけで、口から出る言葉が変わります。
3つ全部を一度にそろえなくて大丈夫です。試すなら2番目だけで足ります。「今からちょっとだけやるとしたら、何からやるのが一番マシそう?」。この一言で子どもの動きがどう変わるかは、あとの場面別のフレーズで戻ってきます。
一方で、言い方を変えても、その日に動かない子はいます。それをどう読むかは、理由のほうから見ると分かりやすいです。
なぜ「勉強しなさい」は逆効果になるのか
理由は3つあり、いちばん大きいのは1つめです。
1. 子どもの「自分で決めたい欲」を壊すから
人間には「自分で選びたい」という欲求があります。そこに「勉強しなさい」と命令が飛んでくると、やらされている感が一気に高まって、やる気が削られてしまいます。
うちで起きているかの見分け方は、言った直後の反応です。返事だけして動かない、ため息をつく、部屋に行ってしまう。どれも「決めさせてもらえなかった」の合図です。
宿題への親の関わり方を調べた研究を、数十本まとめて見た報告があります。数十万人の親子のデータを合わせると、親が宿題に関わること全体は、成績とはむしろ、ごくわずかに逆の向きでした。ところが関わり方を分けて見ると、子どもに考えさせ、選ばせ、できると信じて見守る関わりだけが、はっきり正の向きでした。口出しや管理、親が解いてしまう関わりには、はっきりした正の向きは出ていませんでした。算数だけを調べた別のまとめでも、口出しや圧力は逆向きに出ています。
効きは大きくありません。多くは追いかけて観察した調査なので、どちらが原因かも言い切れません。ただ、小学1・2年生と親を1年追いかけた研究では、宿題中に親がいらだちを見せていた家ほど、翌年、子どもが算数を好きでなくなり、難しい問題を避けるようになっていました。一方で、選ばせる関わりそのものは、ほかの条件を差し引くと予測の力を失っていました。言い方を変えれば伸びる、とまでは言えないのです。確かなのは、「勉強しなさい」と一緒に出てしまういらだちを、勉強の場に持ち込まないことのほうだと私は読んでいます。
2. 「勉強=イヤなこと」というイメージが固定されるから
勉強するたびに「怒られる」「命令される」という体験がセットになると、頭の中で「勉強=ストレス源」として記憶されます。一度こうなると、机に向かうだけで気分が重くなるので、余計に動かなくなります。
3. 親子の空気がピリピリしやすくなるから
勉強の話題が出るたびにケンカになると、子どもは「勉強の話=親と衝突するきっかけ」と感じて、話を聞く姿勢すら取らなくなっていきます。
3つとも、始まる前に起きていることです。音楽の活動を使った実験では、命令口調で指示された子でも、始めてしまえば意欲は上がっていました。1種類の活動での結果なので、算数の宿題でも同じかは分かりません。それでも私は、狙う場所は「始まる前」の一言だと読んでいます。では、始まる前に何を言うか。3つの順番の1つめは、勉強の話ではありません。
ステップ1:感情に寄り添うフレーズ
勉強の話をする前に、「子どもの今の気持ち」に合わせます。いきなり指示を出すと反発されるので、ここが入口です。
- 「今日、学校どうだった?」
- 「今、ちょっと疲れてる?」
- 「今、始めるのしんどい感じ?」
- 「今日、一番しんどかったのってどの教科?」
聞くときは、事実と気持ちだけに絞ります。評価や説教を混ぜない。「だから言ったじゃん」「それはサボったからでしょ」と挟むと、対話のシャッターが閉じてしまいます。
気持ちを聞いただけでは、まだ勉強は始まりません。ここで「じゃあやろう」と言いたくなるのを、もう一段だけこらえます。
ステップ2:選択肢を渡すフレーズ
「やる・やらない」ではなく「どうやるか」の選択肢を渡します。自分で決めた感覚を持たせるためです。
- 「今からちょっとだけ勉強するとしたら、何からやるのが一番マシそう?」
- 「算数と国語だったら、どっちからならやれそう?」
- 「10分だけやるのと、25分集中して一気にやるの、どっちがいい?」
- 「リビングと自分の部屋、どこでやった方が集中できそう?」
やる前提で質問することと、どっちを選んでも親的にOKな選択肢にしておくこと。この「問いで主導権を渡す」技術は、「どうしたい?」「どう思う?」の問いかけ会話術に詳しく書いています。この2つがそろっていれば、「今日やる? やらない?」と聞かなくて済みます。
選んだあとに「じゃあ全部やる」と言う子は、まずいません。では、量はどこまで小さくしていいのでしょうか。
ステップ3:行動を小さく区切るフレーズ
「勉強」という言葉は子どもにとってざっくりしすぎていて、脳が自動的に「めんどくさい」に分類しがちです。そのため、行動を細かく区切ってあげます。
- 「とりあえず、今日の宿題“どれくらいあるか”だけ一緒に見てみよっか」
- 「まず5分だけ、漢字のドリルやってみない?」
- 「1ページやったら、一回お茶タイムにしようか」
- 「タイマー鳴るまでの10分、本気でやってみるってのはどう?」
始めるハードルを下げると、やり始めた勢いでそのまま続くことが多いものです。「5分だけ」と言った5分で本当に終わっていい。今日20分やらせて明日始まらないより、翌日また5分から始まるほうが、先に進みます。声かけとあわせて、そもそも言わなくても始まる仕組みを作る方法は、勉強の習慣が続く5つの条件にまとめています。
順番は分かった。でも帰宅直後の「早く宿題しなさい!」は、どの問いに置き換えればいいのか。
シーン別「勉強しなさい」の代替フレーズ集
どの場面でも、避けたい言い方は「やれ」の形で、代わりに使うのは「どこまで」「どっち」「どれ」の問いです。場面ごとに、そのまま使える形にしておきます。
1. 帰宅直後にダラダラしているとき
避けたい声かけは「早く宿題しなさい」。代わりに使えるのは、選ぶ余地を残す問いです。
- 「ちょっと休憩したら、宿題どうするか一緒に決めよっか」
- 「先に10分だけゲームする? そのあと宿題どうするか決めよう」
- 「今日の宿題の量、まず一緒に確認してみない?」
2. テレビやゲームをやめさせたいとき
避けたい声かけは「いい加減やめて勉強しなさい」。代わりに、終わりを本人に決めてもらいます。
- 「そのゲーム、あとどこまで行ったらキリがいい?」
- 「この番組終わったら、宿題タイムにするのと、録画して先に宿題やるの、どっちがいい?」
- 「あと何分だったら、自分でスッとやめられそう?」
3. 机に向かっているけど集中していないとき
避けたい声かけは「ちゃんとやりなさい」。代わりに、止まっている場所を一つだけ探します。
- 「今の問題、どこが一番“わからん…”ってなってる?」
- 「この中で一番めんどくさいやつ、どれ? それ一緒にやろっか」
- 「5分だけ、ここ一緒にやってみる?」
4. やる気ゼロで完全に拒否モードのとき
避けたい声かけは「そんなこと言わないでやりなさい」。代わりに、今日の線を本人に引いてもらいます。
- 「今日はどこまでならできそう?」
- 「OK、じゃあ今日はその感じでもできそうな、いちばん短く終わるものからにしよっか」
- 「今日は“やらない日”にして、明日ちょっと多めにやるっていう作戦はアリ?」
やる気ゼロのときに無理やり押すと、親子ともに削られるので、あえて引く判断も作戦のひとつです。引いた日を「負け」と数えなければ、翌日の一言が軽くなります。動き出したあとの言葉にも、実は落とし穴があります。
行動を引き出す「ほめ方」のテクニック
動き出したあとの一言は、「やればできるじゃん」より、その子が実際にやった選択を指すほうが次につながります。
「やればできるじゃん」は次回への圧になりやすく、中身のない「えらいね」だけだと、本人は自分の何がよかったのか分かりません。
動き出したあとに使えるのは、こんな言い方です。
- 「さっき、自分で“算数からやる”って決めたの、いい選び方だったね」
- 「ゲームやめる時間、自分で守れたね。あれ、いちばん難しいところなのに」
- 「めんどくさいのから先にやったの、いい順番だったね」
行動と選択を、事実の言葉で指す。 その事実に「難しいところを越えた」という意味を添えると、「自分はちゃんとやれる」という自己イメージが育ちます。ただ、こう書いている私自身、うまくいく日ばかりではありませんでした。
それでもイライラしてしまうときのセルフケア
イラッとした日は、言い方の正解を探すより、その日の合格ラインを自分で下げます。冒頭の、一人になってから自己嫌悪に陥る場面がそれです。
- 「今日は一言も“勉強しなさい”を言わなかったら勝ち」
- 「今日は一回キレたけど、そのあと言い方を変えられたからOK」
このくらいのハードルで十分です。親が自分を責めすぎると、結局また感情が爆発して同じことを繰り返します。さきほどの研究で確かだったのは、言い回しの正解より、いらだちを勉強の場に持ち込まないことでした。自分を責める時間を減らすことは、そのまま子どもへの一手になります。では、明日の最初の一言は、何にしておくか。
もう一度、「勉強しなさい!」の場面に戻る
「勉強しなさい」を封印して一番守られるのは、子どもより先に、あなた自身の心かもしれません。毎日怒鳴る自分が嫌いになる時間を減らすために、命令をやめて、決める余地を子どもに戻す。理由はひとつ、順番は「気持ち→選択→小さく」の3つでした。
一つだけ、試してみてほしいことがあります。次に「勉強しなさい!」が口から出そうになったとき、代わりにこう聞いてみる。
「今からちょっとだけやるとしたら、何からやるのが一番マシそう?」
答えが「算数」でも「どれもいや」でも、その答え自体が、あなたと子どもが一緒に作戦を立て始めた証拠です。聞き方そのものをもう少し整えたいときは、子どもの行動を変える質問の聞き方に続きを書いています。
その一言のあと、子どもが最初に選ぶのは何でしょうか。
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Author
石田憲太朗
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