「できない、もうやだ」への声かけ|不安を受け止め次の一歩へ

子どもが鉛筆を持ったまま同じ行を何度も読み、「できない、もうやだ」と言う。親は「できるよ」と返したくなりますが、最初に必要なのは、できていない実感を打ち消すことではありません。
その場で必要なのは、気持ちと事実を分けて受け止め、いま手をつけられることを一つ見つけることです。
宿題の量を見ただけで固まる日もあれば、前に間違えた問題を開いた瞬間に目をそらす日もあります。「もうやだ」は、失敗したくない、どこから始めるかわからない、疲れていて考えにくい、見られるのが恥ずかしい、といった複数の状態から出てきます。
一つの意味に決めつけず、目の前でどこに止まっているのかを見ます。同じ言葉でも、必要なのが休憩なのか、説明なのか、最初の一問なのかは違うからです。
「できない」は、能力の結論ではなく今の状態の言葉
「できない、もうやだ」と言った時点で、子どもが「これからも絶対にできない」と決めているとは限りません。いまの課題が大きく見えたり、失敗したときのつらさを先に避けようとしたりしていることがあります。
始める場所がわからないこともあります。間違えて「できない」と思われるのが嫌なこともあります。以前の失敗が残っていたり、疲れて考えにくくなっていたりする場合もあります。
だからといって、親が「そんなことないよ」と言葉で上書きすれば安心するとも限りません。本人が感じている難しさと大人の断定がずれると、子どもは気持ちを話すことをやめる場合があります。
今できていないことを、今後もできないという判定にしない。だからといって、根拠のない励ましで上書きもしない。
今の結果だけで能力の上限を決めないことと、必要な支援や手順を用意することは、両立します。期待を下げて放っておくのでも、強い言葉で押し切るのでもありません。
最初の一言は、気持ちの訂正ではなく受け止め
高学年の子が、ノートの端を消しゴムで何度もこすっています。問題文の一行で鉛筆が止まり、声をかけても顔を上げません。
子ども:「むずかしい。もうやだ」
親:「そっか。いまは、むずかしく感じているんだね」
返すのは一度で十分です。子どもの状態を言い当てようとせず、「そう感じているんだね」と受け止めるくらいでかまいません。
少し間を置いたら、気持ちの理由を長く聞くより、止まった場所を一つだけ尋ねます。すぐに質問を重ねず、急かさず待つことも大切です。
親:「〇〇、どこで止まった?」
「なぜできないの?」は、子どもに広すぎる説明を求めます。代わりに、「言葉がわからない? それとも式が決めにくい?」「最初の一行だけ、一緒に見る?」「どこまではわかった?」のように、目の前の課題を小さく分けて尋ねます。
返事がなければ、質問を重ねなくても大丈夫です。問題文の最初の一行を一緒に見るだけでも、支える入口になります。
受け止めたあと、休憩か支援かを見分ける
「もうやだ」のあとに、すぐ学習量を減らせばよいわけではありません。疲れているときに説明を重ねても入りにくく、理解のつまずきを休憩だけで済ませても、同じ場所で止まりやすくなります。
疲れているとき
同じ行を何度も読み、返事が短くなり、机の上のものを触り始めるなら、考えるのが難しい状態かもしれません。
親:「いまは続けても、頭に入りにくそうだね」
親:「今日はここで区切る?」
終えるなら、惰性で座らせ続けず、続きの場所がわかるようにしておきます。
親:「終わるなら、続きに戻る場所だけ印をつけておこうか」
休むことを、失敗の証拠にしないことが大切です。
問題の意味がつかめないとき
「何する問題これ」「式がわからない」と言い、鉛筆を持ったまま進まないなら、まず問題文の言葉と式を分けて見ます。
親:「言葉と式、どちらがわかりにくい?」
親:「最初の一行だけ、一緒に見ようか」
答えをすぐ渡すのではなく、まずわかっていることとわからないことを分けます。必要なら例題やヒントを使いましょう。支援を使って進むことも、学び方の一つです。
失敗が恥ずかしい、怖いとき
ノートを見せたがらず、返事が雑になったら、正しさの説明より先に気まずさを下げます。
親:「今すぐ全部見なくていいよ」
親:「どこでずれたかだけ、一緒に見る?」
このときは、自信を言葉だけで補おうとせず、取り組めそうな問題を一つ選び、実際に手を動かせる足場を作ります。ここで大切なのは、成功を約束することではなく、今の状態で取り組める課題を選ぶことです。
課題の大きさをどう決めるかは、小さな成功体験で勉強の自信を育てる家庭学習の進め方と工夫でも整理しています。
一歩は、強い励ましではなく終わりが見える形で作る
動き出しを助けるのは、強い言葉より、本人が終わりを見通せる小さな課題と、必要な支援です。
「全部やるか、やらないか」の二択にすると、始める前の重さがさらに増します。たとえば、ふだんの復習なら3〜5問で区切ります。もう少しなら続けられそうな日は最初の3問にし、鉛筆も動かない日は最初の1問や問題文の一行だけにします。
3〜5問や1問という数字に、誰にでも当てはまる正解があるわけではありません。大切なのは、少ない量そのものではなく、子どもが「ここなら終えられる」と見通せることです。
選択肢を二つほどに絞って渡すのも役立ちます。
親:「最初の3問にする? それとも、例題を一つ見てから始める?」
自律性を尊重することは、何も言わずに任せることではありません。選べる範囲を整え、必要なときは大人が手順や道具を用意することも、主体性を支える関わりです。
始める条件と行動を先に結びつける方法もあります。
親:「机に座ったら、まず問題文の数字に丸をつけようか」
これは、気合いが出るまで待つ方法ではありません。やってみようと思う気持ちが少しでもあるとき、それを最初の動作につなげやすくする工夫です。
結果が出ない日も、できていないことと続けたことを分けて見る
点数や正解数が、まだ思ったように伸びない日もあります。そのとき、結果をなかったことにして「そんなことないよ」と言う必要はありません。
子ども:「やってるのに、全然できるようになってない」
親:「できるようになった感じがしないんだね」
もし親が実際に見た行動があるなら、ここで別の事実として返します。
親:「それとは別に、さっき止まったあと、問題文を読み直していたのは見えていたよ」
できていない実感を打ち消さない。できている行動も消さない。
失敗した事実を認めることと、自分全体を責めることは別です。失敗は失敗として認めます。ただ、自分全体を責めることはいったん横に置き、次に直せる一点へ戻します。
続けた行動を伝えるときは、観察できるものにします。問題文の条件を一つずつ拾っていたこと、途中でやり方を変えたこと、わからないところでヒントや例題を使ったこと、一度離れたあとに自分から戻ってきたことなどです。
たとえば、「頑張ったね」と毎回まとめるより、「途中でやり方を変えていたね」「わからないところでヒントを使って進めたね」「今日はここで終わったね。お疲れさま」のように、見えたことを具体的に返します。
「頑張ったね」が悪いわけではありません。
ただ、実際には見ていない努力を大きく褒めたり、「努力したから必ずできた」と決めつけたりする必要はありません。声かけの目的は、褒める回数を増やすことではなく、子どもが自分の行動や使えた方法に気づけるようにすることです。
「頭がいい」「やればできる」を急いで足さない
子どもが自信を失っているときほど、本人そのものを強く評価する言葉は慎重に扱います。たとえば、「頭がいいね」「天才だね」「やっぱりできる子だね」といった言葉です。
こうした言葉は、その場では明るく聞こえます。けれど、次に難しい問題でつまずいたとき、「できない自分はどうなるのだろう」と受け取られることがあります。
複数の実験では、成功を固定的な能力や人格に結びつける賞賛が、失敗後の持続や自己評価を弱める場合が示されています。常に害があると断定するのではなく、必要のないリスクを足さない、という判断です。
セルフトークでも、能力を言い切る言葉がいつも助けになるとは限りません。「私は算数が得意」「私は絶対できる」と無理に言わせるのは避けます。能力の断言より、次の行動へ注意を戻す言葉のほうが、いまの不安に合うことがあります。
学習場面の実験では、能力への自信が低い子どもでは違いが見られました。「私は得意だ」と言うより、「できる限り取り組む」と考えたほうが、数学の成績に有利な結果が出たのです。ただし、特定の英語フレーズと実験条件での結果であり、日本語の決まった一文が誰にでも効くという意味ではありません。
- 「できるかどうかは、いったん置こう」
- 「まず、わかっている数字を囲もう」
- 「難しいところで止まったら、もう一手だけ試す」
- 「次に試せる方法は何かな」
大切なのは、言葉が子どもの注意を「能力の判定」へ向けるのか、「いま動かせる行動」へ向けるのかです。
自分にかける言葉を家庭で育てる考え方は、子どものセルフトークを育てて心が折れにくい家庭学習を作る方法でも扱っています。
こんな言葉は、最初の一手にはしない
避けるのは、親を責めるためではありません。気持ち・事実・行動の順番を戻すためです。
- 「そんなことないよ」:子どもが感じている難しさを、すぐ訂正してしまう
- 「やればできるって」:支援や手順を渡さず、結果の責任だけを子どもに戻しやすい
- 「前はできたでしょ」:過去との比較が、励ましより査定に聞こえることがある
- 「全部終わるまで座って」:必要な支援ではなく、管理として伝わりやすい
実際には見ていない努力をまとめて褒める「すごく頑張ったね」や、いまの一歩を未来のノルマに変える「明日はちゃんとやろう」も、最初の一言には向きません。言い換えるなら、「いまは難しく感じているんだね」「どこで止まった?」「ここで使えそうな方法はどれかな」と、目の前の状態と行動に戻します。
間違いを指摘された直後の気まずさや悔しさには、別の支え方があります。詳しくは、勉強の間違い声かけで癇癪を防ぐ:前後3場面の実践フレーズで整理しています。
親の役割は「やらせる人」ではなく、動ける条件を整える人
親が学習の結果を直接コントロールしようとすると、声かけは管理や監視に寄りやすくなります。一方で、何も言わずに任せることも、本人に責任を押しつけるだけになりかねません。
親が担うのは、そのどちらでもなく、動ける条件を整えることです。どこで止まったかを一緒に確認し、選べる範囲を二つほどに絞ります。必要に応じて例題・ヒント・休憩を渡し、動けた事実と、まだ難しい事実を分けて返します。
算数の成長は、正解数だけではありません。始めること、止まった場所に気づくこと、助けを使うこと、いったん離れて戻ることも、長く学ぶための力です。
できた日だけでなく、できない日も帰ってこられると感じられる関係が、挑戦の土台になります。何でも許すことではなく、結果と関係を結びつけないという意味です。
親が毎回ぴったりの言葉を探すより、子ども自身が少しずつ「どこで止まった?」「次に何を試せる?」と考えられるようになることが、長い目で見た支援になります。
もし「できない、もうやだ」が勉強以外でも続き、眠りや食事、学校生活まで大きく変わっているなら、家庭の声かけだけで抱え込まないでください。担任や相談先に、いつ・どんな場面で止まるのかを共有すると、必要な支援を考えやすくなります。
まとめ
「できない、もうやだ」は、親が正しい励ましを当てるテストではありません。子どもの気持ちを否定せず、止まった場所を一つずつ見て、必要な支援と終えられる形を用意する場面です。
- 「できない」を能力の結論にしない
- 最初は「そんなことない」ではなく、感じている難しさを受け止める
- 疲れ、わかりにくさ、失敗への怖さで支え方を分ける
- 結果と、実際に続けた行動や使えた方法を別々の事実として返す
まずは、「そっか。いまは、むずかしく感じているんだね」と返し、少し間を置いて「どこで止まった?」と尋ねるところからで大丈夫です。すぐ再開できない日も、戻れる終わり方を整えておけば、子どもが自分の力で次の一歩を選ぶ余地を残せます。
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Author
石田憲太朗
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